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産後の骨盤矯正は必要?自宅でできる7つのメソッドを薬剤師トレーナーが解説

2026.09.16
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「おなかが戻らない」「くしゃみで尿もれする」「抱っこすると腰が重い」——出産後の体に、こうした変化を感じている方は少なくありません。

そして「産後 骨盤矯正」と検索すると、出てくるのは整骨院や整体院の広告ばかり。本当に必要なのか、いくらかかるのか、そもそも通わないとダメなのか——その肝心なところが分からないまま、ページを閉じた方も多いのではないでしょうか。

先に、この記事の結論を3つお伝えします。

  1. 産後の体でまず取り組むべきなのは「骨盤の位置を戻すこと」ではなく、「呼吸と骨盤底筋の機能を取り戻すこと」です。 位置を手で評価すること自体が難しいと分かっている一方、機能は自分で育て直すことができます。
  2. 本格的に体を動かし始める目安は「産後1か月健診で医師の確認を得てから」。 ただし「ゆっくり歩く」「呼吸を整える」「骨盤底筋を締める」といった軽い活動は、医学的に問題がなければ産後早期から可能とされています(ACOG/CSEP)。
  3. 3か月続けても変わらない、または悪化するなら、自己流をやめて医療機関へ。 これは「がんばりが足りない」という話ではなく、専門的な評価が必要なサインです。

書いているのは、熊本市南区・南熊本駅エリアでパーソナルジムを運営するRBDジムです。東京大学薬学部卒・薬剤師国家資格を持つトレーナーが、公的ガイドライン(ACOG、カナダCSEP 2025、NICE)と系統的レビュー(Cochrane)を根拠に、自宅でできる7つのメソッドを「いつから・どうやって・いつやめるか」までセットで整理しました。

この記事では、上位の記事がほとんど触れていない次の3点まで踏み込みます。

  • 「骨盤の歪み」はどこまで科学的に言えて、どこからが言えないのか
  • 腹直筋離開(おなかの中央が縦に離れる状態)の自己チェックと、やってはいけない腹筋
  • すぐに中止して受診すべきサイン(レッドフラッグ)

なお、体の回復のしかたや効果の感じ方には大きな個人差があります。本記事は一般的な健康情報の提供であり、診断・治療を目的とするものではありません。

はじめにお伝えします。RBDジムは医療機関ではなく、診断や治療は行いません。また、当ジムでいわゆる「骨盤矯正」の施術は行っていません。 産後の体の状態については、必ずかかりつけの産婦人科の判断を優先してください。強い痛み・出血・発熱があるときは、運動ではなく受診が先です。


目次

まず読んでください|産後の体は「回復の途中」です

メソッドの前に、安全の話からさせてください。順番を逆にしないことが、産後の体づくりでは何より大切だと考えています。

産褥期(さんじょくき)に、体で起きていること

産褥期とは、出産で大きく変化した体が妊娠前の状態へ戻っていく期間を指す言葉です。一般には「産後6〜8週ごろまで」と説明されることが多い区切りです(MSDマニュアル家庭版は「分娩後の6週間」としています)。ただし文献や施設によって表現に幅があり、回復のスピードにも大きな個人差があります。数字を暗記する必要はありません。

この時期、体の中では次のようなことが同時に進んでいます。

  • 子宮が徐々に元の大きさへ戻っていく(子宮復古)
  • 悪露(おろ)の量が少しずつ減り、色が変わっていく
  • 分娩で大きく引き伸ばされた骨盤底(骨盤の底を支える筋肉と組織)が回復に向かう
  • 妊娠中に変化したホルモンバランスが、授乳の有無も含めて再調整される
  • 睡眠が細切れになり、疲労が抜けにくい

つまり、産後の体は「弱っている」のではなく「大がかりな工事の直後」です。工事の直後に重機を入れれば、当然その分の負担がかかります。

日本には、この時期を医療者と一緒に確認するための制度があります。産婦健康診査(産後2週間・産後1か月の2回)です。これは公費助成の対象となる事業で、母体の回復の確認と、産後うつの予防・早期支援を目的として実施されています(出典: 総務省行政評価局資料、こども家庭庁 産後ケア事業ガイドライン)。

実務上、「1か月健診で医師の確認を得てから、段階的に運動を再開する」が日本での基準線になります。本記事もこの線を前提に書いています。

「軽い活動」と「運動」は、まったく別物です

ここが、多くの情報が混ざってしまっているポイントです。

米国産科婦人科学会(ACOG)のCommittee Opinion No.804は、医学的に問題がなければ、ウォーキングや骨盤底筋運動などの軽い活動は出産直後から可能であり、段階的に活動を再開することは安全としています。また、産後の身体活動は産後うつの予防という観点からも重要だと述べています。

一方、カナダのCSEPが2025年に公表した「産後1年間の身体活動・座位行動・睡眠に関するガイドライン」は、軽強度(ゆっくり歩く・骨盤底筋トレーニング)から開始し、手術創や会陰裂傷が十分に治癒してから強度を進めることを推奨しています。

この2つは「1か月健診まで何もしてはいけない」という日本の一般的な運用と矛盾しません。分けて考えるべきは「軽い活動」と「運動」です。

軽い活動 運動
内容 ゆっくり歩く、呼吸を整える、骨盤底筋を締める、寝返り・起き上がりを丁寧に行う 筋力トレーニング、有酸素運動、腹圧が強くかかる種目、ランニング・ジャンプ
開始の目安 医学的に問題がなければ産後早期から可能とされる(ACOG) 産後1か月健診で医師の確認を得てから、段階的に
判断の主体 体調と痛みの有無を見ながら自分で 医師の確認が前提

時期ごとの目安を、表にまとめます。あくまで一般的な目安であり、経過には個人差があります。医師の指示が最優先です。

時期 体の状態(一般的な傾向) やってよいこと 避けたいこと
産後0〜1か月 回復の最優先期。悪露が続く 休む。授乳・おむつ替えの合間に呼吸を整える。室内をゆっくり歩く。痛みがなければ骨盤底筋を軽く締める 腹筋運動、走る、重い物を持つ、長時間の外出
産後1〜3か月 1か月健診で確認。日常動作が戻ってくる 医師の確認後に、呼吸・骨盤底筋トレーニング・ドローインを本格化。散歩の距離を少しずつ おなかを丸めて縮める腹筋、ジャンプ、痛みを我慢した運動
産後3〜6か月 症状が落ち着いてくる方が増える ヒップリフト、四つ這いの体幹エクササイズ。歩く時間を増やす 急な負荷アップ。coning(後述)が出る種目
産後6か月〜12か月 個人差がさらに大きくなる 週120分の中強度身体活動を目標に。筋力トレーニングを段階的に 「遅れを取り戻す」ための無理

CSEP 2025は、産後1年間の目標として週120分以上の中〜高強度身体活動(MVPA)を、週4日以上に分けて行うことを推奨しています。加えて、尿失禁のリスクを下げるために骨盤底筋トレーニングを毎日行うこと、メンタルヘルスのために産後12週以内に中〜高強度の活動を開始または再開することも推奨項目に挙げられています。

同ガイドラインでは、身体活動の増加が産後うつのリスク45%低下、尿失禁37%低下、2型糖尿病28%低下と関連すること、そして傷害の増加や母乳育児への悪影響は示されていないことが示されています。これは「動くことのメリットは、思われているより大きい」という重要な知見です。

産後の回復段階と運動再開の目安

帝王切開・会陰裂傷があった場合

帝王切開で出産された方から、「いつから動いていいのか分からない」というご相談をよくいただきます。

本記事では「帝王切開なら産後◯週から」という書き方はしません。 創部の治り方は個人差が大きく、判断できるのは経過を診ている医師だけだからです。CSEP 2025も、手術創や会陰裂傷が十分に治癒してから強度を進めるという条件つきの書き方をしています。

現場でお伝えしている考え方は次の3つです。

  • 創部に痛み・つっぱり・違和感がある間は、おなかに負荷をかける種目を避ける。 呼吸と骨盤底筋、歩くことから。
  • 起き上がるときは、いったん横向きになってから手で押して起きる。 仰向けから一気に上体を起こす動作(=実質的な腹筋運動)を日常から減らします。
  • 1か月健診で創部の状態を必ず確認し、運動の再開時期を医師に直接聞く。 「いつから筋トレをしていいですか」と具体的に質問すると答えが得やすくなります。

会陰裂傷や会陰切開があった方も同様です。座ると痛む、傷が引きつるといった状態のうちは、骨盤底筋を強く締めるトレーニングは急がず、痛みのない範囲の呼吸から始めてください。

すぐ中止して受診すべきサイン(レッドフラッグ)

ここは、この記事でいちばん読んでいただきたい部分です。次のサインがあるときは、セルフケアより受診が先です。

【すぐに医療機関へ】

サイン 考えられること
悪露が急に増えた/鮮血が続く/レバー状のかたまりが出る 子宮の回復に関わるトラブルの可能性
38℃以上の発熱、悪寒 感染のサイン
強い下腹部痛、創部(帝王切開・会陰)の痛み・赤み・腫れ・膿 創部感染などの可能性
労作時の胸痛、息切れ、片脚の腫れ・痛み 血栓に関わるサイン
激しい頭痛、目のかすみ、血圧が高い 産後の高血圧に関わるサイン

(CSEP 2025が挙げるレッドフラッグ:強い腹痛、月経と無関係の性器出血、産後心筋症、不安定な高血圧、労作時の胸痛、呼吸困難——および産褥期の一般的な注意事項をもとに整理)

【運動をいったん中止して相談】

  • 運動中・運動後に出血が増える、腹痛が出る
  • 骨盤の底が「下に落ちる/重い/引っぱられる」感じがする(骨盤臓器脱の可能性)
  • 尿もれが増える、または3か月続けても変わらない
  • 恥骨や仙腸関節(お尻の上部)の鋭い痛みで歩くのがつらい
  • おなかの中央が動作時に「山型に盛り上がる」(coning/doming)——腹圧のかけすぎのサイン

最後のconing(コーニング)は聞き慣れない言葉かもしれませんが、産後のトレーニングでは非常に重要です。起き上がる・力むといった動作のときに、おへその上下の中央が三角屋根のようにとがって盛り上がる現象で、「今その動作は、おなかの正中線にかかる圧が強すぎる」というサインです。詳しくは後述します。

薬剤師トレーナーの視点では——産後のご相談でいちばん多いのは、実は「何をすればいいか」ではなく「早く戻さなきゃ」という焦りです。薬の世界には「用法・用量を守る」という大原則があります。効く薬でも、飲むタイミングと量を間違えれば害になる。運動もまったく同じです。産後の体にとって、正しい種目を間違ったタイミングで行うことは、間違った種目を行うのと同じくらいリスクがあります。「早く戻したい」という気持ちが、いちばん回復を遠回りにさせてしまう——現場で何度も見てきた景色です。

気分の落ち込みが続くときの相談先

体の話に偏りがちですが、ここも必ず書いておきます。

気分の落ち込みや不安が2週間以上続く、育児への意欲がわかない、眠れない——そうした状態が続くときは、運動より先に、産婦人科・自治体の産後ケア窓口・保健師へご相談ください。

先ほど触れた産婦健康診査(産後2週間・産後1か月)は、母体の回復確認だけでなく、産後うつの予防と早期支援を目的とした制度でもあります(出典: こども家庭庁、総務省資料)。健診の場で「最近つらいです」と伝えることは、制度が想定している正しい使い方です。

熊本市にお住まいの方は、市の公式サイトに熊本市産後ケア事業と産婦健康診査の案内があります。産後ケア事業は、市内にお住まいで産後1年未満の方を対象に、助産師などの看護職から宿泊・日帰り・訪問の形で支援を受けられる制度です。対象・利用回数・自己負担額は変更されることがあるため、最新の内容は市の案内と区役所の窓口でご確認ください。 母子健康手帳の交付時に受け取った案内にも、相談先がまとめられています。

そして——できない日があって当然です。 1日1分もできない日が続いても、それはあなたの責任ではありません。本記事のメソッドは、「やらないと戻らない」ものではなく、「余裕が出てきたときに手に取れる道具」として読んでいただければと思います。


「産後の骨盤矯正」という言葉を、いちど正確に分解する

ここからが、この記事の心臓部です。少し専門的になりますが、ここを理解しておくと、この先のあらゆる情報に振り回されなくなります。

なお当サイトでは以前、産後ダイエットの記事で「骨盤が開いた状態」という一般的な表現を用いていました。本記事では、その内容を最新の文献にあたって一歩踏み込んで整理し直します。

妊娠中に、本当に起きていること

まず、確かに報告されている事実から。

妊娠中はリラキシンなどのホルモンの働きにより、恥骨結合(こつばんの前側で左右の骨がつながる部分)や仙腸関節(お尻の上部で骨盤と背骨がつながる部分)のまわりのコラーゲン組織が変化し、関節の「遊び」が増すことが報告されています。出産に向けて産道を広げるための、生理的で必要な変化です。

具体的な数字も報告されています。

  • 妊娠していない成人の恥骨結合の幅は、およそ4〜5mmとされます
  • 妊娠に伴って、そこから少なくとも2〜3mm程度広がることが報告されています(妊娠8週時点で約4mm、満期で約7mm程度という計測例があります)
  • 10mm(1cm)を超える開大は、生理的な範囲を超えた状態(恥骨結合離開)として扱われます。これは医療機関で診断されるものです
  • 産後は、その多くが自然に戻っていく

(出典: StatPearls “Postpartum Pubic Symphysis Diastasis”)

ここで大事なのは、「開く」といっても単位はミリメートルだということです。「骨盤がガバッと開いて、放置すると固まる」というイメージとは、実際の生理的変化はかなり違います。

また、血中のリラキシン値は骨盤の緩さ(laxity)と関連が示唆される一方で、痛みの強さや開大の程度と直線的に対応するとは示されていません(出典: Sacroiliac Joint and Pelvic Dysfunction Due to Symphysiolysis in Postpartum Women)。つまり、「ホルモンのせいで骨盤が開いた → だから痛い」という単純な図式では説明しきれない、ということです。

では「歪みを手で見つけて、戻す」はどこまで言えるのか

ここが、多くの記事が触れないところです。

骨盤の左右差や傾きを、手で触って見分けられるのか。 これを調べた研究はすでにいくつもあります。結論から言うと、検者間信頼性(=別の人が触っても同じ判定になるか)は非常に低いと報告されています。

  • 骨盤のランドマーク(ASIS・PSIS・仙骨溝・下外側角)の触診について、系統的レビューとメタ解析でpooled κ(カッパ係数)が0.06未満と報告されています。κ係数は「偶然の一致を差し引いた一致度」を示す指標で、0に近いほど「偶然当たっているのと変わらない」ことを意味します(出典: Physical Therapy Reviews 27(3), 2022)。
  • PSIS(骨盤後方の出っ張り)の触診に絞った系統的レビューでも、「臨床的な有用性を支持できるだけの検者間信頼性は得られていない」と結論されています(出典: PubMed 27069265)。
  • 徒手触診の信頼性・妥当性を横断的に検討した批判的レビューでも、同様の指摘がなされています(出典: Chiropr Man Therap 2021)。

さらに、「手技で骨盤の位置を戻し、それが維持される」という因果を支持する質の高い根拠は、現時点では乏しいのが実情です。「骨盤の歪みが腰痛・肩こり・便秘・代謝低下の原因」という説明も、因果関係として確立された所見ではありません。

ここで、いちばん誤解されたくないことを書きます。

これは「あなたの不調は気のせい」という意味では、まったくありません。

尿もれも、おなかのぽっこりも、抱っこでの腰の重さも、恥骨の痛みも、すべて実在する症状です。研究が示しているのは、「症状がない」ということではなく、「“骨盤の位置”という指標は、測るのが難しく、判断の軸には向いていない」ということだけです。

だとすれば、取るべき道はシンプルです。

測りにくい「位置」ではなく、対処できる「機能」と「症状」に取り組む。

そして、施術者や整体・接骨院を否定する意図もありません。痛みがつらいときに手技で楽になる方はいますし、それ自体は否定されるものではありません。お伝えしたいのは、「骨盤が戻ったかどうか」を判断基準にすると、確かめようがないものにお金と時間を払い続けることになりかねないということ。判断軸は「日常が楽になったか」「症状が減ったか」に置きましょう、という提案です(相談先の選び方は後述します)。

骨盤矯正と骨盤まわりのケアの考え方の違い

それでも「骨盤が気になる」のは、なぜか

「骨盤まわりが不安定な気がする」「骨盤で支えられていない感じがする」——この感覚自体は、非常に的を射ています。

産後に起きているのは、骨の位置がズレて固まることよりも、骨盤まわりを支える筋肉(骨盤底筋・腹横筋など)が一時的に働きにくくなっていることだと考えられます。

  • 妊娠中、大きくなった子宮に押し上げられて横隔膜・腹横筋の働き方が変わる
  • 腹部が前に張り出した状態が続き、腹壁が引き伸ばされる
  • 分娩で骨盤底が大きく伸張される
  • 産後は抱っこ・授乳で前かがみの姿勢が増え、支える筋肉が使われにくくなる

支える力が落ちれば、当然「グラつく」「支えられていない」と感じます。その感覚を「歪み」という言葉で表現しているケースが、かなり多いのではないかと考えています。

そしてここが重要なのですが、筋肉の働きは、位置と違って、自分で育て直すことができます。 しかも、後で見るように、その方法には公的ガイドラインの裏づけがあります。

本記事が「矯正」ではなく「ケア」と呼ぶ理由

以上をふまえ、本記事では言葉を次のように使います。読者の方への約束です。

使わない表現 本記事で使う表現
骨盤矯正(当ジムの提供内容として) 骨盤まわりのケア/産後の体の回復
歪みを治す・歪みを戻す 機能(支える力・呼吸・姿勢)を取り戻す
骨盤が開いたまま固まる 骨盤まわりの筋肉が働きにくい状態が続くことがある
骨盤が正しい位置に戻る 姿勢や動きやすさの変化を感じる方がいる(個人差あり)
矯正で痩せる/代謝が上がる (使いません。根拠がなく、効果の断定になるため)

「矯正」という言葉は、効果の断定や医療類似行為を連想させます。RBDジムは医療機関でも施術所でもなく、行うのは運動指導と生活習慣の設計です。 ですから、当ジムの提供内容を「骨盤矯正」とは呼びません。

薬剤師トレーナーの視点では——薬剤師の仕事は「効く」と言うことより、「どこまで分かっていて、どこから先は分かっていないか」を正確に伝えることです。臨床試験の論文を読むとき、私たちは結論より先に、対象・方法・信頼区間・限界の章を見ます。測れないものを「治した」と言わないことは、専門職としての最低ラインだと考えています。そのうえで、測れて、変えられて、生活が楽になるところ——呼吸と骨盤底筋と腹横筋——に、全力を注ぎたいのです。


産後の骨盤まわりに起きる3つの変化

では、具体的に何が起きていて、何にアプローチできるのか。3つに整理します。

① 骨盤底筋の機能低下と、尿もれ

骨盤底筋群は、骨盤の底にハンモックのように張って、膀胱・子宮・直腸を下から支えている筋肉です。呼吸に合わせて上下に動き、腹圧がかかったときには反射的に締まって尿道を閉じます。

妊娠中は子宮の重みが長期間かかり、分娩時には骨盤底(筋と支持組織)が大きく伸張されます。その結果、くしゃみ・咳・立ち上がり・子どもを抱き上げるときに尿がもれる(腹圧性尿失禁)という症状が起こりうることが知られています。

産後の尿もれで、多くの方が抱く疑問は2つです。

「これは異常なの?」 → 産後によく見られる症状であり、あなただけではありません。

「いつまで続くの?」 → 時間の経過とともに軽くなっていく方が多いとされますが、経過には大きな個人差があります。3か月ほどのケアで変わらない、あるいは悪化する場合は、産婦人科・泌尿器科への相談を検討する目安と考えてください。「そのうち治る」と我慢し続けるのが、いちばんもったいない選択です。

なお、骨盤の底が「下に落ちる」「重い」「引っぱられる」ような感覚がある場合は、骨盤臓器脱の可能性があるため、トレーニングを進める前に必ず医療機関でご相談ください。

② 腹直筋離開——「おなかが戻らない」の正体かもしれません

腹直筋離開(ふくちょくきんりかい/diastasis recti abdominis: DRA)とは、おなかの前面を縦に走る左右の腹直筋の間にある白線(はくせん)という結合組織が引き伸ばされ、左右の筋肉の間隔(IRD)が広がった状態を指します。

まず、いちばん大事なことを。これは「よくあること」であり、あなたの体が壊れたわけではありません。

報告されている有病率には幅がありますが、目安として次のような数字があります。

時期 腹直筋離開が見られる割合(報告例)
妊娠後期 ほぼ全例
産後6週 約60%
産後12か月 約32.6%
産後3年(IRD>2cm) 約36%
産後5年 約31%
産後10年 約22%
産後20年 約26%
産後30年 約30%

(出典: Scientific Reports 2024 ほか。研究により測定方法・基準が異なるため、数値には幅があります)

「おなかが戻らない」と悩んでいる方の一定数は、脂肪ではなく腹壁の支える力が戻りきっていない状態です。だからこそ、食事制限で体重を落としても解決しないことがあります。

自己チェックの方法(これは診断ではありません)

一般に紹介されている方法を挙げます。あくまで目安であり、診断ではありません。 気になる場合は医療機関で確認してください。

  1. 仰向けに寝て、両膝を立てる(足裏は床)
  2. おへその上・おへその位置・おへその下の3か所に、指を横向きに(体の横方向に)軽く当てる
  3. 頭と肩を「軽く」持ち上げる(完全に起き上がらない。あごを引く程度)
  4. 指が何本分の隙間に沈むかを確認する
  5. 力を抜いて、ゆっくり頭を戻す

指2本分(およそ2〜3cm)以上の隙間があれば、腹直筋離開を疑う目安とされています。ただし、幅だけでなく「深さ」と「張り」も重要とされます。指がすっと深く沈み込む場合と、幅はあっても底で張りを感じる場合とでは、状態が異なると考えられています。

また、チェックの最中におなかの中央が三角屋根のようにとがって盛り上がる場合、それが前述したconing(コーニング)です。「今、正中線にかかる圧が強すぎる」というサインなので、その動作の強度を下げてください(頭を持ち上げる高さを減らす、途中でやめる)。

腹直筋離開のセルフチェック方法とconingの見分け方

治し方について、正直に書いておきます

腹直筋離開のケアについては、「特定の運動プログラムを推奨できるだけの科学的根拠は非常に質が低い」とする系統的レビューがあります。一方で、深層の腹筋(腹横筋)・骨盤底筋・呼吸を組み合わせたアプローチがIRDの低減に有望とする報告もあり、運動は第一選択の保存的アプローチとして位置づけられています(出典: PMC8721086、PMC12013572、Sci Rep 2025のネットワークメタ解析ほか)。

つまり、「これをやれば◯週間で閉じます」とは言えません。 そう断言している情報があれば、根拠を確認したほうがよいと思います。本記事で紹介するのは、現時点で第一選択とされている方向性(呼吸+腹横筋+骨盤底筋)です。

そして、避けるべき動作ははっきりしています。おなかを丸めて縮める腹筋運動(クランチ・シットアップ)の反復です。詳しくは後述します。

③ 腰痛・恥骨痛・骨盤帯痛(PGP)

産後の腰やお尻まわりの痛みは、骨盤帯痛(PGP: pelvic girdle pain)と呼ばれることがあります。恥骨のあたりが痛む、お尻の上部(仙腸関節のあたり)が痛む、片脚に体重をかけると痛む、寝返りがつらい——といった訴えが典型的です。

産後にこうした痛みが起こりやすい背景としては、次の要素が重なっていると考えられます。

  • 妊娠期のホルモンによる関節まわりの組織の変化(前述)
  • 骨盤底筋・腹横筋の支える力の低下
  • 抱っこ姿勢(片側の腰に乗せる、反り腰になる)
  • 授乳姿勢(前かがみで長時間固定される)
  • おむつ替え・沐浴など、前かがみ+ひねりの反復動作

つまり、「骨盤の位置」よりも、支える力の低下と、日常動作の負荷の偏りのほうが、実務的には扱いやすい要因です。抱っこひもの位置を調整する、授乳時にクッションで高さを作る、といった環境の工夫が効くのはこのためです。

なお、デスクワーク由来の一般的な腰の重だるさについては、腰痛改善ストレッチ5選で別途詳しく解説しています。本記事では産後特有の要素に絞っていますので、あわせてご覧ください(ただし、強い痛みがある場合はまず受診を優先してください)。

薬剤師トレーナーの視点では——「おなかが割れている」「腹直筋が離れている」と聞くと、体が壊れてしまったように感じる方が多いのですが、産後6週の時点でおよそ6割の方に見られる所見です。異常ではなく、妊娠という大仕事に体が適応した結果と考えてください。数字を知ることには意味があります。「自分だけがおかしいのでは」という不安が、いちばん体を固くするからです。


自宅でできる7つのメソッド

お待たせしました。ここからが実践編です。7つすべてをやる必要はありません。 時期と体調に合うものから、1つずつで構いません。

始める前の3つの約束

1. 呼吸を止めない

息を止めて力むと腹圧が一気に上がり、骨盤底に下向きの負担がかかります。産後のトレーニングで、息を止めることは最大のNGだと考えてください。「話しながらでもできる強度」が目安です。

2. 痛みが出たら、その場で中止する

「痛いけど効いている気がする」は、産後の体では通用しません。痛みは中止のサインです。次の日に持ち越す痛みが出たら、強度が高すぎます。

3. 「回数」より「感じられているか」

産後のケアは、回数をこなす競技ではありません。1日1分でも、狙った場所が動いている感覚があるほうが価値があります。 できない日があって当然です。

そして共通の前提として、効果の感じ方には大きな個人差があります。 以下の時期の目安も一般的なものであり、医師の指示が最優先です。


メソッド①|仰向けの呼吸リセット(横隔膜と骨盤底の連動)

目的|呼吸に合わせて骨盤底が上下する感覚を取り戻す。すべての土台になるメソッドです。
始めてよい時期|痛みがなければ産後早期から可能とされます(軽い活動に該当)。帝王切開の方は創部に痛みがない範囲で。

やり方

  1. 仰向けになり、両膝を立てる(足は腰幅、足裏は床)
  2. 片手を肋骨の下のあたり、もう片方の手をおへその下に置く
  3. 鼻から4秒かけて息を吸い、肋骨が横と後ろに広がるのを手で感じる
  4. 口から6秒かけてゆっくり吐き、おなかが自然にへこむのを感じる
  5. 吐き終わりに、骨盤の底がふわっと持ち上がる感覚があればOK

回数・頻度|5〜10呼吸 × 1〜3セット。授乳の合間、寝る前など、1日に何度でも。
呼吸|これ自体が呼吸のメソッドです。吸うより吐くほうを長く。
うまくできているサイン|肩が上がらない/胸だけでなく肋骨の横と後ろが広がる/吐いたときに首や肩に力みがない。
中止するサイン|息苦しさ、めまい、創部の痛み。
調整|腹直筋離開がある方こそ、ここから。尿もれがある方は、吐く息の終わりに骨盤底が軽く締まる感覚を探してください。

仰向けで膝を立て、肋骨とおなかに手を当てて呼吸を整える姿勢

メソッド②|骨盤底筋トレーニング(PFMT)基本形——この記事の主役

目的|骨盤底筋の収縮と弛緩をコントロールできるようにする。尿もれ対策の中核です。
始めてよい時期|医学的に問題がなければ産後早期から可能とされます(ACOG)。会陰の傷が痛む間は痛みのない範囲で。CSEP 2025は毎日行うことを推奨しています。

やり方

  1. 仰向けで両膝を立てる(慣れたら座位・立位でも)
  2. 息を吐きながら、肛門・腟・尿道を、体の内側へ引き上げるように締める
  3. そのまま3〜5秒キープ(息は止めない)
  4. 締めた時間と同じだけ、しっかりゆるめる
  5. これを繰り返す

イメージのヒント|「おしっこを途中で止めるように」と説明されることがありますが、実際の排尿中に試すのは避けてください(排尿を妨げるため)。感覚をつかむための例えとして使います。「エレベーターが1階から2階へ上がる」イメージも有効です。

回数・頻度|5〜10回 × 1日2〜3セットから。慣れたら回数を増やします。効果を実感できるまでおおむね3か月程度かかるとされています(出典: 久光製薬 患者指導資材「骨盤底筋体操」巴ひかる先生監修)。
呼吸|止めない。 息を止めて締めるのは、骨盤底に負担をかける典型的な誤りです。
うまくできているサイン|お尻・太もも・おなかの表面に力が入っていない/締めたあとにしっかりゆるめられる。
中止するサイン|骨盤の底の痛み、下に落ちる感覚、尿もれの悪化。
調整|感覚がつかめない方は、まずメソッド①の呼吸から。ゆるめられないほうが問題になることもあるため、「締める」より「ゆるめる」を丁寧に。

PFMTについて、何がどこまで言えるのか

ここは正直に書きます。骨盤底筋トレーニングの効果は、「予防」と「治療」で、根拠の強さがはっきり違います。

Cochraneの系統的レビュー(Woodley SJ et al. 2020, CD007471.pub4/46試験・10,832人・21か国)の主な結果を整理します。

目的 対象 結果 確実性(GRADE)
予防 尿もれのない方が妊娠中から実施 → 妊娠後期の尿失禁(6試験・624人) RR 0.38(95%CI 0.20–0.72)=約62%低下 中等度
予防 同上 → 産後3〜6か月時点の尿失禁(5試験・673人) RR 0.71(95%CI 0.54–0.95)=約29%低下 高い
治療 産後に尿もれが続く方が産後から開始 → 産後6〜12か月超の尿失禁(3試験・696人) RR 0.55(95%CI 0.29–1.07)=差があるとは言えない 低い
予防と治療の混合 症状の有無を問わない集団が産後から開始 → 産後後期の尿失禁(3試験・826人) RR 0.88(95%CI 0.71–1.09)=効果は不確実 中等度

※RR(リスク比)が1より小さいほど「尿失禁が起きにくい」ことを意味します。95%信頼区間に1が含まれている場合(0.29–1.07、0.71–1.09)は、「差があるとは言い切れない」と読みます。

読み取れることは、次の通りです。

  • 妊娠中から予防的に行うことの効果は、確実性が高い(産後3〜6か月時点でRR 0.71、高い確実性)。
  • 一方、産後に尿もれが出てから始める“治療”としての効果は、現時点では不確実です。「やれば必ず良くなる」とは言えません。
  • ただし安全性は高い。43人の試験で2名が骨盤底の痛みで離脱した以外、有害事象の報告はありませんでした。

この「産後開始の治療効果は不確実」という部分を、多くの記事は省略します。でも、省略せずにお伝えするのが誠実だと考えています。

では、やる意味はないのか。そうではありません。

  • NICE NG210(英国、2021年)は、退院前と産後の定期的な接触のたびにPFMTを勧めるよう推奨し(推奨1.3.13)、さらに分娩時にリスク因子(器械分娩、児が上向きで生まれた経腟分娩、肛門括約筋の損傷)があった女性には、指導つきの3か月間のPFMTプログラムを検討するよう推奨しています(推奨1.3.12)。同ガイドラインが参照したエビデンスでは、産後病棟でリクルートされた女性へのPFMTは産後3か月時点の尿失禁予防に臨床的に意味のある利益がある一方、12か月時点では示されない(低〜中等度の質)とされています。
  • CSEP 2025は、産後の尿失禁リスクを下げるためにPFMTを毎日行うことを推奨しています。
  • 日本でも、「女性下部尿路症状診療ガイドライン[第2版]」(日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会)に骨盤底筋訓練の章があり、腹圧性尿失禁の初期治療として位置づけられています。

まとめると——「確実に治る方法」ではありませんが、安全性が高く、複数の国際ガイドラインが推奨し、日本でも初期治療として位置づけられている方法です。そして、3か月続けても変わらないなら医療機関へという出口をあらかじめ決めておけば、やってみる価値のある選択肢だと考えています。

骨盤底筋トレーニングの予防効果と治療効果の比較(Cochrane 2020)
骨盤底筋トレーニングを行うときの仰向けの基本姿勢

メソッド③|PFMT応用(速い収縮+くしゃみ前の「締める」習慣)

目的|とっさの腹圧に、反射的に対応できるようにする。日常での尿もれ対策に直結します。
始めてよい時期|メソッド②の基本形が「締める・ゆるめる」ともにできるようになってから。

骨盤底筋には、ゆっくり持続的に働く役割と、とっさに素早く締まる役割の両方があります。くしゃみや咳は一瞬の出来事なので、ゆっくりの収縮だけでは間に合いません。だから速い収縮も練習します。

やり方(速い収縮)

  1. 仰向けまたは座位で、姿勢を整える
  2. 1秒締めて、1秒ゆるめるを、テンポよく繰り返す
  3. 締めるときも、息は止めない

やり方(くしゃみ前の「締める」習慣)

  1. くしゃみ・咳が出そうな予感があったら、その直前に骨盤底をキュッと締める
  2. 同時に、軽く体を前ではなく“斜め上”に起こす意識で、背すじを伸ばす
  3. 重い物を持ち上げる前、子どもを抱き上げる前にも同様に

この「先に締めてから腹圧をかける」習慣は、海外では”The Knack”と呼ばれ、生活の中で取り入れやすい工夫として紹介されています。

回数・頻度|速い収縮10回 × 1日2〜3セット。基本形(メソッド②)とセットで。
呼吸|止めない。速い収縮では特に呼吸が止まりやすいので注意。
うまくできているサイン|10回繰り返しても、締まりの強さが落ちない。
中止するサイン|骨盤底の痛み、疲労感が強い、尿もれの悪化。
調整|疲れると収縮が弱くなります。弱くなった時点でやめるのが正解です。回数を伸ばすより、質を保ってください。

座った姿勢で骨盤底筋トレーニングを行うときの座り方

メソッド④|ドローイン(腹横筋の再教育)

目的|腹横筋(おなかを横方向に包むコルセット状の深層筋)を働かせ直す。腹直筋離開がある方の第一歩です。
始めてよい時期|1か月健診で医師の確認を得てから。呼吸(メソッド①)ができるようになってから進みます。

やり方

  1. 仰向けで両膝を立てる。腰の下の自然なカーブは残したまま
  2. 鼻から息を吸い、肋骨を広げる
  3. 口から細く長く吐きながら、下腹部を薄く内側へ引き込む(おへそを背中に近づけるイメージ)
  4. 引き込んだ状態で5〜10秒キープ。息は浅く続ける
  5. ゆっくりゆるめる

回数・頻度|5〜10回 × 1日1〜2セット。
呼吸|引き込みながら呼吸を続けるのが最大のポイント。息を止めて凹ませるのは別物です。
うまくできているサイン|おなかが硬く盛り上がるのではなく、薄く平らになる/腰が床に強く押しつけられていない/骨盤底も軽く引き上がる感覚。
中止するサイン|coning(中央が山型に盛り上がる)、腰の痛み、息苦しさ。
調整|腹直筋離開がある方は、両手でおなかの左右を内側に軽く寄せながら行うと、感覚をつかみやすくなります。うまくいかない日は呼吸だけで十分です。

仰向けで両膝を立ててドローインを行う姿勢

メソッド⑤|ヒップリフト(お尻と体幹をつなぐ)

目的|お尻(殿筋)を働かせ、骨盤まわりの支えを作る。抱っこ姿勢で反り腰になりやすい方に。
始めてよい時期|医師の確認後、産後2〜3か月以降を目安に。メソッド①④ができてから。

やり方

  1. 仰向けで両膝を立てる(かかとはお尻から握りこぶし1〜2個分)
  2. 息を吐きながら、お尻の筋肉で骨盤を持ち上げる
  3. 肩・腰・膝がゆるやかな一直線になったところで止める(上げすぎない)
  4. 2〜3秒キープし、背骨を上から順に下ろすようにゆっくり戻す

回数・頻度|8〜12回 × 1〜2セット、週2〜3回から。
呼吸|上げるときに吐く。 力むタイミングで息を止めないこと。
うまくできているサイン|お尻に効いている/腰が反っていない/おなかの中央が盛り上がっていない。
中止するサイン|腰の痛み、恥骨の痛み、coning、尿もれ。
調整|腰が反りやすい方は、上げる高さを半分に。腹直筋離開がある方は、上げる前に軽くドローインを入れてから動き出すと、正中線への圧が分散しやすくなります。

ヒップリフトで肩から膝まで一直線になった正しい姿勢

メソッド⑥|四つ這いの体幹安定(バードドッグ)

目的|動きながら体幹を安定させる力を養う。抱っこ・おむつ替えなど、実際の育児動作に近い姿勢です。
始めてよい時期|医師の確認後、産後3か月以降を目安に。ドローイン(④)ができてから。

このメソッドは3段階に分けます。焦って先に進まないでください。

【段階1】四つ這いキープ

  1. 四つ這いになる(手は肩の真下、膝は股関節の真下)
  2. 背中は丸めず反らさず、フラットに
  3. その姿勢のまま、ドローインをしながら5〜10呼吸

【段階2】片手または片脚だけ

  1. 段階1の姿勢から、片手だけを前に伸ばす(または片脚だけを後ろに伸ばす)
  2. 3〜5秒キープして戻す。左右交互に

【段階3】対角の手足

  1. 右手と左脚を同時に伸ばす。伸ばした側の骨盤が開かないように
  2. 3〜5秒キープして戻す。左右交互に

回数・頻度|各段階5〜10回 × 1〜2セット、週2〜3回。段階を上げるのは、1つ前の段階でぐらつかなくなってから。
呼吸|伸ばしている間も呼吸を続ける。
うまくできているサイン|背中に置いた棒が落ちないようなイメージで、骨盤が左右に傾かない/おなかの中央が盛り上がらない。
中止するサイン|手首・腰の痛み、coning、体がぐらついて姿勢を保てない。
調整|手首がつらい方は、前腕をついた姿勢(肘つき)で。腹直筋離開がある方は、段階1と2で十分です。段階3に進めなくても問題ありません。

なお、産後すぐのプランクはおすすめしていません。うつ伏せで全身を支える姿勢は正中線に強い圧がかかりやすく、coningが出やすい種目だからです。体幹トレーニング全般の正しい進め方については体幹トレーニング完全ガイドで解説していますが、産後の方は、まず本記事の段階を踏んでから参照してください。

四つ這いから対角の手足を伸ばすバードドッグの姿勢

メソッド⑦|歩く(いちばん現実的で、いちばん効く)

目的|全身の循環・気分・持久力を整える。産後の身体活動の主役です。
始めてよい時期|痛みがなければ早期から、室内をゆっくり歩くところから可能とされます(ACOG)。距離と速さは段階的に。

「歩くだけ?」と思われるかもしれません。しかし、CSEP 2025が推奨している週120分以上の中〜高強度身体活動の大部分は、多くの方にとって歩くことで満たせます。

やり方(進め方)

  1. 室内・庭先をゆっくり歩く(1回5分程度から)
  2. 慣れたら外を10〜15分。ベビーカーでの散歩でも構いません
  3. 「少し息が弾むが、会話はできる」中強度まで速さを上げていく
  4. 週4日以上に分けて、合計120分を目標に(CSEP 2025 推奨3)

抱っこひも・ベビーカーでの散歩は、立派な運動です。 赤ちゃんの体重を含めた負荷がかかるぶん、同じ距離でも強度は上がります。「運動の時間を確保しなければ」と考えると続きませんが、「毎日の散歩を少し長く・少し速く」なら現実的です。

回数・頻度|週4日以上、合計120分を目標に段階的に。1回10分を1日2回でも、合計は同じです。
呼吸|会話ができる程度。息が上がりすぎるならペースを落とす。
うまくできているサイン|終わったあとに「気分が軽い」/翌日に疲れを持ち越さない。
中止するサイン|出血が増える、下腹部痛、骨盤底が下に落ちる感覚、恥骨の痛みで歩行がつらい。
調整|抱っこひもで腰がつらい方は、位置を高めに調整し、肩ではなく腰ベルトで支える。長距離はベビーカーに切り替えてください。

メンタルヘルスの観点でも、歩くことには価値があります。 CSEP 2025は、メンタルヘルスのために産後12週以内に中〜高強度の活動を開始・再開することを推奨しており、身体活動の増加が産後うつのリスク低下と関連することを示しています。外の空気を吸うことには、体重とは関係のない価値があります。

ベビーカーを押して散歩する産後のウォーキング

7つを、どう組むか(5分版・15分版)

すべてを毎日やる必要はありません。時間帯も分けて構いません。

【5分版】——時間がない日に

順番 メソッド 時間
1 ① 呼吸リセット 1分
2 ② PFMT基本形(5回) 2分
3 ③ 速い収縮(10回) 1分
4 ④ ドローイン(5回) 1分

※④ドローインは、1か月健診で医師の確認を得てから加えてください。それより前の時期は、①〜③だけの「4分版」で十分です。

【15分版】——産後3か月以降・体調が安定してきたら

順番 メソッド 時間
1 ① 呼吸リセット 2分
2 ② PFMT基本形(10回) 3分
3 ③ 速い収縮(10回×2) 2分
4 ④ ドローイン(10回) 2分
5 ⑤ ヒップリフト(10回×2) 3分
6 ⑥ バードドッグ(該当段階) 3分

週の組み方の例

曜日 内容
月・水・金 15分版(または5分版)
火・木・土・日 5分版 + 散歩20〜30分
毎日 ② PFMT(CSEP 2025は毎日を推奨)

できない日は、飛ばしてください。 「毎日やらないと意味がない」ということはありません。骨盤底筋トレーニングだけは短時間でどこでもできるので、授乳中や信号待ちに滑り込ませるのがおすすめです。

産後の時期別・自宅でできる7つのメソッドの進め方

産後にやってはいけない・気をつけたい5つのこと

「何をするか」と同じくらい、「何をしないか」が大切な時期です。

① おなかを丸めて縮める腹筋運動(クランチ・シットアップ)

いちばん避けたいのがこれです。

仰向けから上体を丸めて起こす動作は、腹直筋の間の白線に強い張力をかけます。腹直筋離開がある状態でこれを反復すると、離開を悪化させうると指摘されています。

「おなかを引き締めたい」という目的なら、なおさら遠回りです。まずはドローイン(メソッド④)で腹横筋を働かせ直すほうが、腹壁を支える力の回復という点では理にかなっています。

判断基準はシンプルです。その動作でconing(おなかの中央が山型に盛り上がる)が出るなら、まだ早い。 出なくなってから、少しずつ。

② 息を止めて力む(腹圧を一気に上げる)

息を止めて踏ん張ると、腹腔内の圧力が一気に上がり、その圧は下向きに骨盤底を押します。回復途中の骨盤底にとっては、これが最も不利な条件です。

  • 重い物を持ち上げるとき
  • 子どもを抱き上げるとき
  • 便秘でいきむとき

このどれもが該当します。持ち上げる前に息を吐き始める、骨盤底を先に軽く締めてから動く(メソッド③のThe Knack)を習慣にしてください。便秘が続く場合は、いきみ続けるより医療機関や薬局で相談したほうが、骨盤底のためになります。

③ 産後早期のランニング・ジャンプ・重い荷物

走る・跳ぶという動作は、着地のたびに体重の数倍の衝撃が骨盤底にかかります。CSEP 2025が「軽強度から開始し、段階的に進める」としているのは、こうした負荷の順序を守るためです。

判断の目安として、次のすべてを満たしてから検討してください。

  • 医師の確認を得ている
  • 尿もれがない、または大きく減っている
  • 骨盤底が「下に落ちる」感覚がない
  • 歩く速度を上げても、痛みや症状が出ない

急いで走り始めて症状が出るより、数か月かけて土台を作ったほうが、結果的に早いというのが現場での実感です。

④ 骨盤ベルトを強く・長時間締めっぱなしにする

詳しくは次章で扱いますが、「きつく締めるほど効く」という道具ではありません。 強く締めれば腹腔内の圧が上がり、かえって骨盤底に負担がかかる可能性があります。装着位置・時間は製品の説明書に従い、可能であれば助産師・医師の指導を受けてください。

⑤ 極端な食事制限

授乳期は、食事摂取基準で授乳婦に「付加量」(上乗せ分)が設定されているほど、エネルギー・栄養の需要が高い時期です。その時期に極端な制限をかけると、回復・気分・睡眠に不利に働きうると考えられます。

なお本記事では、減量や食事メニューの具体的な方法論は扱いません。 産後の体重・食事の進め方については、【熊本】産後ダイエットを成功させる5つの方法で別途詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。

補足:「痛みがあるのに続ける」「他人と比べる」

最後に2つ。

痛みを我慢して続けることに、産後の体では利点がありません。 痛みは「その動作は今の体に合っていない」というサインです。

そして、SNSで見かける「産後◯か月で元通り」と自分を比べないでください。 出産の経過も、傷の治り方も、睡眠時間も、サポートの有無も、人によってまったく違います。比較は回復を早めません。


骨盤ベルトは、どう位置づければいいか

「骨盤ベルトは買ったほうがいいですか?」——これもよくいただく質問です。期待できることと、できないことを分けて考えましょう。

何を期待できて、何は期待できないか

期待できると報告されていること

妊娠関連の骨盤帯痛(PGP)に対して、骨盤ベルトが痛みを軽減したとするランダム化比較試験や系統的レビューが複数あります。

  • Kordi R et al. 2013(RCT、妊娠中のPGP): 非剛性の骨盤ベルトを用いた群で、3週後・6週後の疼痛強度が有意に低下した
  • Bertuit J et al. 2018(J Clin Nurs、RCT、46名): ベルト使用でVASにして約20mmの疼痛低下が報告された
  • 2025年の系統的レビュー・メタ解析(Musculoskelet Sci Pract)でも、妊娠中の腰痛・骨盤痛に対する骨盤ベルトの効果が検討されている

期待できないこと(根拠が示されていないこと)

  • 「骨盤を元の形に戻す」 → 産後にこれを示した質の高い根拠はありません
  • 「締めれば痩せる」「サイズダウンする」 → 根拠はありません

整理すると、骨盤ベルトは「痛みがつらい時期に、支えて動きやすくするための一時的な補助」として位置づけるのが妥当だと考えています。体型を戻すための道具ではなく、締めっぱなしにするものでもありません。

位置・締め方・使う期間の考え方

製品によって設計が異なるため、最終的には製品の説明書と、可能であれば助産師・医師の指導に従ってください。 そのうえで、一般的な考え方を挙げます。

項目 考え方
位置 ウエスト(おなかのくびれ)ではなく、骨盤の高さに巻くのが基本とされます。上にずれるほど、支えたい部分から外れます
強さ 指が1〜2本入る程度。強く締めるほど効くものではありません
時間 痛みや不安定感がある場面(起き上がる、歩く、家事)を中心に。就寝時や一日中の常用は避けるのが一般的な考え方です
やめ時 痛みが軽くなり、支えなしでも動けるようになったら、少しずつ外す時間を増やす

ベルトに頼りきりにしないことも大切です。 外からの支えに長く依存すると、自前の支える力(骨盤底筋・腹横筋)を使う機会が減ります。「ベルトで痛みを抑えている間に、自分の支える力を育てる」——この併用が現実的です。

ガードル・骨盤ショーツとの違い

骨盤ベルトが「特定の部位を支える目的の装具」であるのに対し、ガードル・骨盤ショーツは衣類として体を整えるものです。着用によって姿勢が意識しやすくなる、服のラインが整うといった価値はありますが、「骨盤の形を変える」「痩せる」といった効果を示した質の高い根拠はありません。

本記事では特定の製品名・ブランドの比較は行いません。 選ぶ際は、締めつけが強すぎないか、長時間の着用で不快感がないかを基準にしてください。


セルフケアで足りないとき|相談先の選び方

あらためてお伝えします。RBDジムは医療機関ではありません。 当ジムでいわゆる「骨盤矯正」の施術は行っておらず、行うのは運動指導と生活習慣の設計です。診断・治療が必要な症状は、必ず医療機関へご相談ください。

そのうえで、「どこに相談すればいいか分からない」という声が本当に多いので、選択肢を整理します。

まずは産婦人科へ

次のような場合は、最初の相談先は産婦人科です。

  • 尿もれが続く、量が増えている
  • 骨盤の底が下に落ちる/重い/何か挟まっている感じがする(骨盤臓器脱の可能性)
  • 恥骨や仙腸関節の強い痛みで歩行がつらい
  • 創部(帝王切開・会陰)の痛みや違和感が続く
  • 気分の落ち込みが2週間以上続く

「こんなことで受診していいのかな」と思う内容こそ、産婦人科の守備範囲です。 産後健診の場で相談するのがいちばん自然ですが、健診が終わっていても受診はできます。

泌尿器科・ウィメンズヘルス(女性理学療法)という選択肢

尿もれについては、泌尿器科も相談先になります。日本のガイドラインでも、腹圧性尿失禁に対して骨盤底筋訓練が初期治療として位置づけられており、専門的な指導を受けられる場合があります。

また近年は、ウィメンズヘルス領域を専門とする理学療法士が在籍する医療機関も増えています。骨盤底筋の収縮が正しくできているかを専門的に評価してもらえるため、「自己流でやっているが、合っているか分からない」という方には有力な選択肢です。お住まいの地域で受けられるかどうかは、かかりつけの産婦人科に尋ねてみてください。

整体・接骨院を選ぶときに確認したい4つのこと

「整体や接骨院に行ってはいけない」とは考えていません。 痛みがつらいときに手技で楽になる方はいますし、寄り添ってもらえること自体に価値があります。

ただ、選び方の基準は持っておいたほうがよいと思います。手技による医業類似行為については、国民生活センターが2012年に、施術による危害相談が寄せられている旨を公表しています(全国消費生活情報ネットワーク・PIO-NETに2007年度以降の約5年間で825件、増加傾向。危害内容には神経・脊髄の損傷や骨折が含まれるとされます)。この件は日本医師会の報告書にも引用されています。また総務省行政評価局も、令和2年(2020年)に「消費者事故対策に関する行政評価・監視——医業類似行為等による事故の対策を中心として——」として、この分野の事故対策を取り上げています。頸部などに急激なひねりを加える手技(スラスト法)については、厚生労働省の通知で禁止されています。

これを「怖い話」で終わらせず、チェックリストに落とし込みます。

確認したいこと なぜ大事か
① 国家資格の有無を確認できるか 柔道整復師・鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師は国家資格。「整体師」は国家資格ではありません。掲示や説明で確認できるかを見ます
② 説明のしかたが誠実か 「骨盤が◯cm歪んでいる」「今やらないと一生戻らない」といった断定や不安を煽る説明には注意。位置の評価が難しいことは研究で示されています
③ 強い矯正を売りにしていないか 強い力を加える手技ほどリスクは上がります。産後の体には特に
④ 痛みが出たら中止・中断できるか 「痛くても続けないと効果が出ない」と言われる場合は要注意。回数券の途中でも中断できるかを事前に確認

加えて、目的をはっきりさせてから行くことをおすすめします。「骨盤を戻してもらう」ではなく、「腰の痛みを楽にしたい」「動きやすくなりたい」。目的が症状ベースなら、効果があったかどうかを自分で判断できます。

3か月続けても変わらない/悪化するときは、自己流をやめる

最後に、出口の基準をもう一度。

  • 3か月続けても尿もれが変わらない → 医療機関へ
  • 続けているのに症状が悪化している → すぐに中止して受診
  • 骨盤底が下に落ちる感覚が出てきた → 続けずに受診
  • 痛みが増している → 中止して受診

骨盤底筋トレーニングは効果の実感までおおむね3か月程度かかるとされるため、この「3か月」を一つの区切りにしています。やめどきを決めておくことは、あきらめではなく、次の一手に進むための設計です。


【薬剤師トレーナーの視点】授乳期の体づくりで押さえたい栄養と薬

ここからは、薬剤師としての視点からお伝えしたいことをまとめます。産後・授乳期の「食べていいのか」「薬を飲んでいいのか」という不安は、体の悩みと同じくらい大きいと感じているためです。

授乳期は「減らす時期」ではなく「質を上げる時期」

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では、授乳婦に対してエネルギー・たんぱく質・鉄などの「付加量」(上乗せ分)が設定されています。これは、母乳の産生と母体の回復のために、通常より多くの栄養が必要とされているという意味です。

2025年版で示されている授乳婦の付加量は、おおむね次のとおりです(いずれも、非授乳時の値に上乗せする量)。

栄養素 授乳婦の付加量(2025年版)
エネルギー +350 kcal/日
たんぱく質(推奨量) +20 g/日
鉄(推奨量) +2.0 mg/日
カルシウム 付加量は設定されていません(非授乳時の推奨量を満たすことが目安)

付加量は版の改定ごとに見直されます(鉄は2020年版から見直されています)。最新の数値は厚生労働省の原典(「日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書」)でご確認いただくか、健診や自治体の栄養相談、管理栄養士にお尋ねください。なお、この数値は「毎日きっちり足さなければいけないノルマ」ではなく、「それだけ栄養の需要が高い時期だ」という目安としてご覧ください。

覚えていただきたいのは方向性です。授乳期は、栄養を「削る」より「整える」時期です。

  • たんぱく質を毎食に(卵・魚・肉・大豆製品・乳製品)
  • 鉄を含む食品を意識(赤身肉・魚・大豆製品・青菜)
  • 水分をこまめに
  • 片手で食べられるものを常備しておく(現実的にはこれが大事)

厚生労働省の「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」も、妊娠前から産後までを通じたバランスのとれた食事の考え方を示しています。

繰り返しになりますが、減量や食事の具体的な進め方は本記事の範囲外です。産後ダイエットの記事で詳しく扱っていますので、そちらをご覧ください。

だるさ・立ちくらみは、貧血かもしれません

産後に「とにかくだるい」「立ちくらみがする」「階段で動悸がする」という方は少なくありません。これを「育児疲れ」だけで片づけないでください。

分娩時の出血に加え、授乳によって鉄の需要が高まります。鉄が不足している可能性を、血液検査で確かめることができます。

ここが薬剤師として強くお伝えしたい点です。自己判断で鉄のサプリメントを増やす前に、健診での血液検査と医師の判断を優先してください。

理由は2つあります。

  1. だるさの原因は貧血とは限りません。 甲状腺の問題など、他の原因が背景にあることもあります。自己判断でサプリを飲むと、確認の機会を先送りにしてしまいます。
  2. 鉄の過剰摂取には、消化器症状などのリスクがあります。 必要のない量を摂ることに利益はありません。

サプリメントを使うこと自体を否定しているのではありません。「確かめてから使う」という順序をおすすめしています。

授乳中の薬を、どう考えるか

「授乳中だから、薬は全部ダメ」——これは、よくある誤解です。

実際には、薬剤ごとに母乳への移行のしかたや、お子さんへの影響の評価は異なります。一律に「ダメ」でも「大丈夫」でもありません。

日本には、この判断のための公的な情報源があります。国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」です。同センターは、「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」のリストを薬効順・50音順で公開しています。

まず知っておいていただきたいのは、「調べられる仕組みがある」という事実です。市販薬を買うときも、処方を受けるときも、「授乳中です」と伝えれば、医師・薬剤師はその情報をふまえて判断できます。

ただし、本記事では個別の薬品名について「飲んでよい/いけない」は一切書きません。 同じ成分でも、お子さんの月齢・体重・状態、母体の腎機能や肝機能、併用薬によって判断は変わるからです。必ず主治医・薬剤師にご相談ください。 授乳を中断する前に相談することも大切です。「念のため断乳」が、実は不要だったというケースは珍しくありません。

サプリ・プロテインは使っていい?

「授乳中にプロテインを飲んでいいですか」というご質問もよくいただきます。

考え方はシンプルです。プロテインは、たんぱく質を粉にした食品です。 食事でたんぱく質が足りていない日に、補助として使うのは選択肢の一つです。一方で、食事で足りているなら、あえて必要なものではありません。

注意したいのは、「ダイエット用」「脂肪燃焼」などをうたった製品です。カフェインやハーブなど、たんぱく質以外の成分が配合されているものがあります。授乳中は、原材料表示を必ず確認し、不安があれば薬剤師・医師に相談してください。

薬剤師トレーナーの視点では——産後の栄養とサプリの相談で、私がいちばん多くお伝えしているのは「増やす前に、確かめましょう」です。薬でもサプリでも、効果を期待する前に「今の自分に必要か」を確認するのが基本です。血液検査の結果という客観的な情報があれば、判断は一気に楽になります。不安に商品で対処するのではなく、情報で対処する——これが遠回りに見えて、いちばん確実な道だと考えています。


産後0〜12か月のスケジュール例

ここまでの内容を、1枚の表にまとめます。

時期 体の状態(一般的な傾向) やること 避けること チェックポイント
0〜1か月 回復最優先。悪露が続く。睡眠が細切れ 休む。呼吸リセット(①)。痛みがなければ軽くPFMT(②)。室内をゆっくり歩く 腹筋運動、走る、重い物、長時間の外出、ベルトの常用 産後2週間健診で体調と気分を相談
1〜3か月 1か月健診で医師の確認。日常動作が戻ってくる ①②③を毎日。医師の確認後にドローイン(④)。散歩を10〜20分へ 丸める腹筋、ジャンプ、痛みを我慢した運動 1か月健診で「いつから運動していいか」を直接質問
3〜6か月 症状が落ち着く方が増える。腹直筋離開は改善傾向 ⑤ヒップリフト、⑥バードドッグ段階1〜2を追加。散歩を週4日以上へ 急な負荷アップ。coningが出る種目 尿もれが変わらないなら受診を検討
6〜12か月 個人差がさらに大きい ⑥段階3へ。週120分の中強度活動を目標に。筋力トレーニングを段階的に 「遅れを取り戻す」ための無理 痛み・尿もれが残っていないかを再確認

この表はあくまで目安です。出産の経過、傷の治り方、睡眠やサポートの状況によって、適切な進み方は一人ひとり異なります。個人差が大きい領域であり、医師の指示が最優先です。 表より遅くても、何の問題もありません。


よくある質問(FAQ)

Q1. 産後半年・1年を過ぎたら「手遅れ」ですか?

A. 「手遅れ」という考え方自体を、手放していただきたいと思っています。 骨盤底筋トレーニングは、産後何年経っていても取り組めるものです。実際、腹直筋離開の長期の調査では産後何年経った方も対象になっており、この領域は「期限つき」の話ではありません。「◯か月までがゴールデンタイム」という表現は、不安を利用した売り文句になっている場合があります。今日が、いちばん早い日です。

Q2. 帝王切開でも、骨盤まわりのケアは必要ですか?

A. 必要性は経腟分娩の方と変わらないと考えられています。妊娠期間中に骨盤底へ負荷がかかることは、分娩方法にかかわらず共通だからです。ただし、創部の治癒が前提になります。創部に痛み・つっぱりがある間はおなかに負荷をかける種目を避け、呼吸と歩くことから。再開時期は必ず医師に確認してください。本記事では「帝王切開なら産後◯週から」という書き方はしていません。個別の判断が必要だからです。

Q3. 整骨院の「産後骨盤矯正」には通ったほうがいいですか?

A. 一律にお答えできませんが、判断の軸はお示しできます。「骨盤の位置を戻してもらう」ことを目的にするのはおすすめしません。 位置の評価は検者間信頼性が低いことが報告されており、「戻ったかどうか」をあなたが確認する手段がないからです。一方、「痛みがつらいので楽にしたい」という症状ベースの目的なら、選択肢になり得ます。その場合は本記事の「4つの確認事項」(国家資格・説明の誠実さ・強い矯正を売りにしていないか・中止できるか)を目安にしてください。

Q4. 骨盤ベルトはいつから、いつまで使えばいいですか?

A. 産後すぐから使用できる製品もありますが、製品の説明書と、可能であれば助産師・医師の指導に従ってください。使う目的は「痛みや不安定感がある場面で支える」こと。強く締めない、就寝時や一日中の常用は避ける、が一般的な考え方です。やめ時は「支えなしでも痛みなく動ける」と感じられるようになったタイミングで、少しずつ外す時間を増やしていきます。

Q5. 尿もれはいつまで続きますか?

A. 多くの方は数か月のうちに軽くなっていきますが、個人差が大きいのが実情です。目安として、3か月ほどケアを続けても変わらない、あるいは悪化する場合は、産婦人科や泌尿器科への相談を検討してください。「産後だから仕方ない」と何年も我慢される方がいますが、相談すれば選択肢があります。Cochraneのレビューでも、産後に症状が出てから始めるトレーニングの効果は不確実とされており、自己流だけで抱え込まないことが大切です。

Q6. 腹筋運動はいつからしていいですか?

A. おなかを丸めて縮めるタイプの腹筋(クランチ・シットアップ)は、急がないでください。 目安は、①医師の確認を得ている、②ドローイン(メソッド④)が呼吸を続けながらできる、③その動作でconing(中央が山型に盛り上がる)が出ない——の3つを満たしてから。時期でいえば産後数か月以降になる方が多いですが、経過には個人差があります。「おなかを引き締めたい」目的であれば、先に腹横筋を働かせ直すほうが理にかなっています。

Q7. 授乳中でも運動して大丈夫ですか?母乳に影響しますか?

A. CSEP 2025のガイドラインでは、産後の身体活動の増加について、傷害の増加や母乳育児への悪影響は示されていないとされています。一方で、極端な食事制限を伴う減量は別問題です。授乳期は付加量が設定されるほど栄養需要が高い時期なので、「運動する・食事は整える」という組み合わせをおすすめします。運動前に授乳を済ませておく、水分をしっかり摂る、締めつけの強くないブラを使う、といった実務的な工夫も役立ちます。

Q8. 赤ちゃんを預けられません。それでもできますか?

A. できます。本記事の7つのメソッドは、すべて自宅で・道具なしで行えるものを選びました。①②③は赤ちゃんが寝ている隣でも、授乳中でも行えます。⑦の散歩はベビーカーや抱っこひもでそのまま実践できます。

それでも「自分のやり方が合っているか不安」という場合は、オンラインでの指導という選択肢があります。当ジムでも、自宅から画面越しに受けていただける形をご用意しています。赤ちゃんが隣にいても、途中で授乳やあやすために中断しても問題ありません。マンツーマンなので、人目を気にせず尿もれや骨盤底の話ができるのも、対面のグループレッスンにはない利点です(オンライン指導全般のメリットはオンラインパーソナルトレーニングの記事で詳しく解説しています)。


まとめ|熊本・南熊本で、産後の体づくりを相談したい方へ

最後に、この記事の要点を振り返ります。

  • 産後にまず取り組むべきは「骨盤の位置を戻すこと」ではなく「呼吸と骨盤底筋の機能を取り戻すこと」。位置の触診は検者間信頼性が低いと報告されており(pooled κ<0.06)、判断軸には向きません。ただし、あなたの症状が実在することは、それとはまったく別の話です。
  • 軽い活動(歩く・呼吸・骨盤底筋)は医学的に問題がなければ早期から(ACOG)。運動(筋トレ・有酸素・腹圧のかかる種目)は1か月健診で医師の確認を得てから、段階的に(CSEP 2025)。
  • 骨盤底筋トレーニングは、予防としての効果は確実性が高く、産後開始の治療としての効果は不確実。それでも安全性は高く、複数の国際ガイドラインが推奨しています。3か月を区切りに、変わらなければ受診を。
  • 腹直筋離開は産後6週で約60%に見られる、よくある所見。クランチ・シットアップを避け、呼吸+ドローインから。coningは「圧が強すぎる」サインです。
  • 骨盤ベルトは、痛みの時期の一時的な補助。「戻す」「痩せる」道具ではありません。
  • できない日があって当然。1日1分でも構いません。他人と比べる必要はありません。

産後の体づくりは、体型を元に戻すための競争ではありません。抱っこが少し楽になる、くしゃみが怖くなくなる、朝起きたときの腰が軽い——その一つひとつが、十分に価値のある変化です。

なお、強い痛み・出血・発熱があるときは、運動ではなく、まず医療機関へご相談ください。


赤ちゃんがいても続けられる形を、一緒に考えます

「自分のやり方が合っているか不安」「痛みが出ないか怖い」「外に出るのがしんどい」——そう感じている方は、一度ご相談ください。

RBDジムは、熊本市南区・南熊本駅エリアのパーソナルジムです。東京大学薬学部卒・薬剤師国家資格を持つトレーナーが、体のしくみと生活のリズムの両面から、今のあなたの体に合った進め方を一緒に設計します。体重の話をしたくない方には、体重の話をしません。日常が楽になることを目標に置くこともできます。これが、赤ちゃんがいても続けられる形を一緒に考える、熊本市南区のRBDジムの考え方です。

  • 無料カウンセリング(対面・オンライン)で、現状とご希望を伺います。
  • オンライン指導なら、自宅から受けていただけます。赤ちゃんが隣にいても、途中で中断しても大丈夫です。
  • マンツーマン指導なので、人目を気にせず尿もれや骨盤底のご相談ができます。
  • 管理栄養士も在籍し、授乳期の食事についてもご相談いただけます。
  • ご予約・お問い合わせ
  • お電話: 080-5259-3762(受付 11:00〜21:00 / 月曜定休)
  • Web予約: HotPepper Beauty(予約ページ)からも承っています。
  • 所在地: 〒862-0963 熊本県熊本市南区出仲間9-5-10 スペーシアビル4F(南熊本駅から車で約5分)

※当ジムは医療機関ではありません。診断・治療が必要な症状は、医療機関への受診を優先してください。産後の運動開始については、必ずかかりつけの医師の確認を得てからご相談ください。

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関連記事(参考)


主な参考・出典

ガイドライン・公的機関

  • CSEP「2025 Canadian Guideline for Physical Activity, Sedentary Behaviour and Sleep throughout the First Year Postpartum」 https://csepguidelines.ca/guidelines/postpartum/
  • ACOG Committee Opinion No.804「Physical Activity and Exercise During Pregnancy and the Postpartum Period」 https://www.acog.org/clinical/clinical-guidance/committee-opinion/articles/2020/04/physical-activity-and-exercise-during-pregnancy-and-the-postpartum-period
  • NICE NG210「Pelvic floor dysfunction: prevention and non-surgical management」 https://www.nice.org.uk/guidance/ng210/chapter/recommendations
  • 日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会「女性下部尿路症状診療ガイドライン[第2版]」(Minds) https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00544/
  • こども家庭庁「産前・産後サポート事業ガイドライン/産後ケア事業ガイドライン(令和6年10月)」 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/d4a9b67b-acbd-4e2a-a27a-7e8f2d6106dd/c9cfc841/20241030_policies_boshihoken_tsuuchi_2024_80.pdf
  • 総務省行政評価局「産婦健康診査事業」資料 https://www.soumu.go.jp/main_content/000788811.pdf
  • 総務省行政評価局「消費者事故対策に関する行政評価・監視——医業類似行為等による事故の対策を中心として——結果報告書」(令和2年11月) https://www.soumu.go.jp/main_content/000717043.pdf
  • 熊本市「熊本市産後ケア事業について」 https://www.city.kumamoto.jp/kiji00333589/index.html
  • 熊本市「産婦健康診査について」 https://www.city.kumamoto.jp/kiji00338692/index.html
  • 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html
  • 厚生労働省「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」(2021年3月改定) https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/a29a9bee-4d29-482d-a63b-5f9cb8ea0aa2/c948c48d/20230401_policies_boshihoken_shokuji_01.pdf
  • 国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター「授乳と薬について知りたい方へ」 https://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/
  • 厚生労働省通知「医業類似行為業に関する指導について(依頼)」(平成26年2月7日) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc0082&dataType=1&pageNo=1
  • 日本医師会 国民生活安全対策委員会報告書(2014年3月/手技による医業類似行為の危害を引用) https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20140312_51.pdf

系統的レビュー・学術論文

  • Woodley SJ et al. “Pelvic floor muscle training for preventing and treating urinary and faecal incontinence in antenatal and postnatal women.” Cochrane Database Syst Rev. 2020;5:CD007471. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7203602/
  • 骨盤ランドマーク触診の信頼性:系統的レビュー+メタ解析(Physical Therapy Reviews 27(3), 2022) https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/10833196.2021.2019368
  • PSIS触診の信頼性:系統的レビュー https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27069265/
  • 徒手触診の信頼性・妥当性の批判的レビュー(Chiropr Man Therap 2021) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8390263/
  • StatPearls「Postpartum Pubic Symphysis Diastasis」 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK537043/
  • 「Sacroiliac Joint and Pelvic Dysfunction Due to Symphysiolysis in Postpartum Women」 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8580107/
  • 腹直筋離開への腹部・骨盤底筋トレーニングの根拠(系統的レビュー) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8721086/
  • 産後運動が骨盤底障害・腹直筋離開に与える影響(系統的レビュー+メタ解析) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12013572/
  • 腹直筋離開の長期有病率(Sci Rep 2024) https://www.nature.com/articles/s41598-024-76974-x
  • 腹直筋離開リハのネットワークメタ解析(Sci Rep 2025) https://www.nature.com/articles/s41598-025-22574-2
  • Kordi R et al. (2013) 骨盤ベルトのRCT https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.3233/BMR-2012-00357
  • Bertuit J et al. (2018) J Clin Nurs 骨盤ベルトのRCT https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jocn.13888
  • 妊娠中の腰痛・骨盤痛に対する骨盤ベルトの系統的レビュー(Musculoskelet Sci Pract, 2025) https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0266613825002475

一般向け・監修つき資料

  • 久光製薬 患者指導資材「骨盤底筋体操」(埼玉石心会病院 泌尿器科顧問 巴ひかる先生監修) https://www.hisamitsu-pharm.jp/medicalsupport/guidance/neoxy/sizai07.pdf
  • MSDマニュアル家庭版「産褥期のケアの大まかな説明」 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/22-女性の健康上の問題/産褥期のケア/産褥期のケアの大まかな説明

文責

白木 勝也
RBDジム オーナー・トレーナー
東大薬学部卒・薬剤師国家資格保有。熊本市南区を拠点に、理論に基づいた「リバウンドしにくい設計を目指したメソッド」で多くの女性のボディメイクをサポート。

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